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ムシカWeb通信


■ 2007/12/08 佐々木達夫さん

11/25 日曜日

 ティムパニ奏者 佐々木達夫さんが音楽監督を務めるマリンバ・アンサンブルのコンサート(トッパンホール)を聴きに行きました。佐々木さんはリオ・デ・ジャネイロで友達になった打楽器奏者で、当時はブラジル交響楽団のティムパニストでした。マリンバも素晴らしく、彼の奏でるバッハのフルート・ソナタ E-Dur(訂正:書いてしまってから「曲名、違うなあ」と思っていたのですが、やはり間違いでした。バッハのヴァイオリンのためのパルティータ III BWV 1006 E-Dur が正しいのです。ごめんなさい。12/11)のマリンバ版は今でもはっきりと覚えています。もしバッハがこの演奏を聴いたとしたら躍り上がって喜んだことでしょう。

 打楽器奏者が素晴らしいか平凡かは最初の音で決まります。彼らが徐々に良くなるなどということはほとんど無いといってよい。良い奏者は、それまでその場を支配していたもろもろを彼の最初の一撃で一瞬のうちに凝縮し、次の瞬間には全てを彼のみの世界とします。

 舞台には大きなマリンバが七台、”Le Rose"という七名の女性奏者の演奏グループが、バッハ、モーツアルト、グリークらの名作の編曲版とツィマーという人のマリンバのためのオリジナル曲を演奏、この日佐々木さんは指揮者でした。

 私は佐々木さんが指揮をするところを見たことがありませんでしたので、それは楽しみに、また緊張して演奏の始まるのを待ちました。佐々木さんは燕尾服を着て指揮棒を持って現れました。細身の軽快な姿は35、6年前とちっとも変わらず、いや今気付いたのですが、35、6年前と同じとは驚くべきことですね。あのリオのホールで感じたピーター・パンのような彼(その時は胸に窓のようなダイヤ形の飾りのついた白いパンタロンスーツを着ていた)がほとんどそのまま──まあ顔つきは以前より一層信頼の置けるプロの表情でしたが──の雰囲気でした。

 一曲目はJ.シュトラウスの「こうもり」の序曲、真に優秀なティムパニストの完璧なリズムに裏打ちされた胸のすくような棒さばき、この指揮の見事さは、グリークの<ペール・ギュント組曲>の「オーゼの死」や「ソルベーグの歌」のようなしっとりとした曲でも彼の生まれながらの音楽性と相まって遺憾なく発揮されました。

 クラウス・ディーター・ツィマーというスイスの打楽器奏者の作品もとても面白く聴きました。マリンバのためのオリジナル作品も増えており、そのような曲のみで演奏会が持たれることも多くなっているということです。しかし佐々木さんは、古今の名作をマリンバの音で表現してみよう、とこの日のコンサートのプログラムを構成、そしてこのようなことは目的であり挑戦でもある、とプログラムに書いておられました。最後に演奏されたのはなんとモーツアルトのシンフォニー第40番 全楽章でした。

 マリンバという楽器の特性や音色の独特の美しさに寄せる深い信頼と新しい未来への求道的な気持ちがなければ、これほどに大きな曲をマリンバのみで演奏してみようというエネルギーは湧いてこなかったと思います。聴いたことのない、新しくも麗しい音が紡ぎ出されて行きました。それは文字通り手織り機から彩なす布地が少しずつ織り出され、光を受けて様々な色に変わっていくのを目の当たりにするような音の光景でした。

 佐々木さんの指揮はますます冴え渡り、それはマリンバを知り尽くした人にのみ生み出すことの出来る音色でした。さらに長年シンフォニーオーケストラでの演奏を職業とし、身体のどこを突ついても音楽細胞といった、あらゆる意味で第一級のプロフェッショナルの音楽でした。

 アンコールで佐々木さんがマリンバの撥を持って登場、彼のマリンバを本当に、ほんとうに久し振りに聴くことが出来、大満足。”Le Rose" は広沢園子さん、重田克枝さん、笹谷久美子さんをはじめ皆さん非常に熱意のこもった演奏で、これからもマリンバという楽器の魅力をどんどん紹介して下さることと思います。佐々木さんはこれから指揮者としてもさらに良い仕事をして行く事でしょう。

 終演後、彼に会い抱き合って喜びました。「佐々木さん、あなたの指揮にびっくり!」「コンサート、是非一緒に!」と言われ「エエッ」とわたし。彼はサンディエゴ・シンフォニー、サンディエゴ・オペラの首席ティムパニスト、アメリカに住む音楽家で、ここ東京で会ったのも30年ぶりのこと、東京で共演、とはこれまで思ってもみませんでした。     

 佐々木さんのマリンバによる「バッハ」は絶品です。是非皆様にお聴き戴きたいと思います。

コメント(1) [コメントを投稿する]

_ hara [昨日、佐々木達夫さんと会いました。実は私の娘が小学校の合唱部に入っており、明日12月22日に「きゅうりあん大ホール」..]


■ 2007/12/14 1991年夏、わたしは・・・

 床に積まれた本と散乱する紙で私の家はいよいよ身動きが取れなくなり、よけ損なって転倒などの危険が出て来たので、太郎の古い本棚の本を処分することになりました。絵本、童話、図鑑などなどですが、いざ捨てようと思うとこれがそう簡単ではありません。作者、翻訳者ご自身が下さった本は絶対にとっておきたい、ポルトガル語の絵本も捨て難い、英語の童話は茜に送ってやりたい、「ツルはなぜ一本足で眠るのか」はわたしが読みたい・・・。なんとかせねばと思っても前へ進みません。と、本の間から一通の航空便が。差し出し人は私、宛名は太郎。ケルンから盛岡市に飛んで行った手紙でした。当時太郎は佐々木正利先生の教えを噛み締める浪人生、わたしはアグネス・ギーベル女史の許で七転八倒の日々を送っていました。1991年夏のことです。この手紙の著作権は私だと思うけれど所有権は太郎なのかしら。親書というものを読むのはなあ、と首をかしげつつも自分が何を書いたのかが知りたくて開ける。太郎の許しも得たので以下にその内容を。          

                                 

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コメント(2) [コメントを投稿する]

_ 大和美信 [メンデルスゾーンコアのsop.です。 先生のケルンでの日々を、まるで映像を見ているように感じながら、読ませていただき..]

_ 小西久美子 [歌うとき口は 使わない 口は 歌わない 凄い言葉だと思いました。]


■ 2007/12/24 クリスマス!

 皆様、今の今までクリスマス・コンサートのプログラム、テキスト、訳詞、解説の原稿に没頭していたため、皆様にはすっかりご無沙汰しておりました。さっきやっと完成し、今コピー機が仕事をしています。そこでふと見たTV、シリアの小さな一地域のようですが、いまだにアラム語を使っているところがあり、先生が生徒に教えていました。生徒・・11、2歳の女の子が「アラム語はイエスの使った言葉だから覚えておきたいの」と言っていました。こんなに素晴らしいメッセージを聴くことが出来、あんまり嬉しかったので、お伝えしたく、blogを開けた次第です。

 さて今夜は6時から本郷教会でクリスマス・コンサートが開かれます。プログラムはなかなか豪華です。小さな教会で、歌う人が多過ぎる、というお叱りも戴くのですが、演奏は一期一会、志を持った方には歌って戴き、すこしでも多くの方とその喜びを分かち合えたらと思っていますので。時にはお客様より多い演奏者、ということもあるのですが、歌いながら、弾きながら先人たちの伝えてくれたメッセージを、そしてなによりもイエスの語って下さった言葉を自分の心身で受け止めるかけがえのない時と場なのです。

 そうそう、今日は恐らく日本で初めて穴無しのナチュラル・トランペットでバッハのカンタータ110番のバス・アリアをお聴き戴けることと思います。昨日練習で聴いたのですが、音がスッと走るように抜け、そして会堂に穏やかに広がるのです。奏者は中村孝志さん、右手でトランペットを支え、使わぬ左手は横隔膜のあたりに置いたり、時にはポケットに。なかなかのスタイルです。とても楽しみ。リスクを恐れずチャレンジを重ねているのは演奏家たるもの誰も同じですが、トランペットの奏者の勇気に勝るものはないでしょう。祈ってます!

お天気も良さそうですから、是非皆様お出かけ下さい。

善いクリスマスを!


■ 2007/12/29 今までのこと、少しずつ

 12/24(月) クリスマス・コンサート終了。穴無しのナチュラル・トランペットでのバッハ110番大成功! 中村孝志さん、お目出度うございます! このごろになってやっと歌い手、奏き手、聴き手がお互いに余裕をもって楽しめるようになったのかしら、というところです。シュッツ、モンテヴェルディ、バッハを演奏しましたが、作曲家によって全体の音色が自然に変わって行き、こういうものか、と思った次第です。身体の不調その他で練習に出られなかったメンバーも皆聴きに来てくれて一安心。

 一ヶ月前の11/23にはヘレン・ケラー記念音楽コンクールが行われ、11/25は佐々木達夫さん指揮のマリンバ・アンサンブルに感激したのでした。その後も随分色々なことがありましたが、毎日があれよあれよでしたので、何も書けませんでした。これから少しずつご報告致します。

 12/1(土) 中学の60周年記念式典で同窓会コーラス<アクアリウス>が演奏。先頃、登録有形文化財として登録された徽音堂という講堂で。中学のころ長門美保歌劇団が<蝶々夫人>を上演、初めてオペラを聴いた場所。ここでコルトーのピアノも聴いた。また私が生まれて初めて指揮をした所、初めて人前で独唱した所、などなど思い出は尽きず。その頃一緒にやった友達とこの日も共に音楽・・シューベルト/ディストラー/橋本国彦/メンデルスゾーン・・(ディストラーと橋本国彦はほぼ同時代の作曲家)を。

 12/6(木) シュッツ合唱団のYさんが先生をしている幼稚園から「生きる、歌う、育てる」というテーマで話を、といわれ伺う。Yさんのお母上が園長さんで、かくしゃくとしておられ、とても80歳を過ぎた方とは思えない。宮大工の手になるという組木の建物で、本当の木造建築とはこんなに気持ちのよいものか、とびっくりした。一つの組に三歳、四歳、五歳児が混ざっていて、年かさの子供が自分より幼い子供の面倒を自然にみるようになる、とのこと、成る程と感心。輪になって歌い乍らお遊戯のようなことをするReigen(ライゲン・輪)もとても面白かった。子供も先生もとても静かな声で歌うのが印象的だった。私は「子供が生まれたからといって、それまで自分が好きでやっていたことを止めてしまわず、是非そのまま続けて下さい」とお願いする。子供は親が面白そうにやっていることに興味を持ち、見よう見まねで自分もやってみようと思うのではないかしらん。


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