トップ 最新

ムシカWeb通信


■ 2016/12/20 零下26度のミネアポリスから   FBより

 Ballet Minnesotaの《Nutcracker》計7回の公演が日曜日の夕方に終了し、バックステージの重労働で半死半生だった桃子もやっと一息です。孫の茜はおもちゃの兵隊役とラゲディ・アン人形役を日替わりで、また小姓役を毎回踊るということで、弟の輝はどうしても両方観るといってきかず、土曜日昼夜2回鑑賞。茜は失敗もなくチャーミングな舞台を務め、終ったあとも淡々としていて、随分大人になったなあと思いました。輝は2回とも難しい表情で舞台から目を離さず、どこが違うとか遅れてるとかとても7歳児とは思えぬ言葉を吐くのです。この辺は4、5歳の頃からバッハの《ヨハネ受難曲》のオケの練習に欠かさず出席し、誰が間違った、誰が遅れた、とうるさかった家の誰かさんにそっくりです。

 そして今日、夕食後に「Showが始まります」と子供たち。決められた席に座ると灯りが消え、輝がマイクで「皆さん、ようこそ! ナット・クラッカーが始まります。」と挨拶。《胡桃割り人形》の音楽が流れ、すでに序曲で動かぬパペットの「ラゲディ・アン」登場です。それから茜は各場面の登場人物を次々と一人で踊り、クララが胡桃割り人形を貰って喜ぶシーンでは、輝がさっと人形を差し出し、自分はフリッツとなって共に踊ったのです。さらに輝は部屋の灯りを点けたり消したり、また手には小さな懐中電灯を2つ持って場面毎にそれは繊細な照明操作! こうやって2人でクララが夢から覚める迄を踊り続け、父親に「宿題をしなさい!」と言われ渋々幕。

 あとで尋ねると、茜はほとんどの登場人物の振りを覚えているとのこと。輝はどこでだれが何をして次はどうなる、ということを全て知っていて、もう明日にでも演出が出来そうな勢いです。Ballet Minnesotaでは毎年クリスマス・シーズンには必ず《Nutcracker》を上演し、子供たちも「マウス」「天使」「ラット」などと段々に役が難しくなって行くそうです。このバレエ学校は5年目の茜ですが、こうやって毎年同じ演し物で先輩たちの踊りをじっと観ていることも大切な修業の道程なのですね。私にとっては、驚きと喜び、反省と奮起の実に思いがけない1時間10分でした。


■ 2016/12/26 スカンジナヴィアのクリスマスディナーについて  FBより

 マッシュポテト、ホワイトクリーム、白いソーセージ(今年は少し色がついていたが)、クランベリーソース、紅い林檎の入ったフルーツサラダ、これらは付け合わせ。メインは想像を絶する食物「 lutefisk 」。ブルブルの透明なゼリーのなかでときどき現れる白い身はその昔ヴァイキングが保存食にしたという鱈だそうだ。味無し。2年前ここミネアポリスで初めて出会った。食事中に交わされた会話の中で「藁」「白樺の灰」という言葉が印象に残った。この時は、藁はイエスの誕生、灰は死、 lutefisk は復活を意味し、周りの白いものは羊、紅い林檎がイエスの血なんでは、と勝手に想像し興奮。

 さて、ミネアポリスで父はフィンランド人、母はスエーデン人というキースと結婚した桃子は、嫁いだ家の伝統食をお姑さまから厳しく伝授され、今はスイスイとものの1時間ほどでこのディッシュを作ってしまう。この珍しい食卓に招かれた私は透明ブルブルのイエスさまに再びお目に掛かり暫し瞑目。 生の鱈が「藁」と「灰」の力を借りて透明なゼリーに至るという過程が気になり、これはひょっとして人間が悟りに至る道程を示唆しているのではとの妄想が胸を過り震えた。理由(わけ)あって熟読中の奇書『心理学と錬金術』(C.G.ユング1944)のせいかも。


■ 2016/12/30  “The Story of Crow Boy” (からすたろう物語)のこと

 日本にとっては原爆と敗戦、アメリカにとっては大勝利の第2次世界大戦終結時の様子を日本に生まれた‛やしまたろう′が米国人として戦った筆舌に尽くし難い体験とたろうの代表作『からすたろう』の物語がからまった重層の台本(Steven Epp)、それを人形と人間が同じ舞台上で演技する作品(演出 Sandy Spieler)である。桃子の役は八島太郎の妻である光。太郎(Masanari Kawahara)と光の間に娘ももが生まれる。太郎はももを主人公にした絵本『あまがさ』を描く。

 さてここミネアポリスの桃子の部屋には‛やしまたろう′の『あまがさ』が大切に飾られている。彼女の誕生を祝って私の友人ピアニストS子さんが下さった絵本だ。物心ついた頃から桃子は『あまがさ』を大切に扱い、ももと自分を重ね、八島太郎の描いたももの顔が自分に似ていることに驚いていた。40数年を経てさらに大きな驚きが待っていた。桃子がこのももの母に扮し、ももがこの世に誕生するシーンを演じたのだ。さらに本当のももさんがこの芝居をわざわざカリフォルニアから観に来て下さったとのこと。桃子の『あまがさ』にはももさんから桃子に宛てたメッセージが記されていた。なんという不思議な巡り合わせ。こういう事を眼のあたりにすると私は暫く身体が硬直し脳が痺れ時間感覚を失う。

 12/25付Star Tribune紙1ページ全面に今年の との見出しで2人の批評家がそれぞれ10の演し物を推薦。そのひとつに今年の2月、ここミネアポリスで上演された “The Story of Crow Boy” in the Heart of the Beast が載っていた。


更新