早や3月、冬期オリンピックの話題で華やいでいたとはいえ、天災、人災も絶え間なく、なにか先を急がされているような感じです。私の年齢のせいかもしれません。去る2月4日、満80歳となりました。
そして受難節です。今年もイエス・キリストが私たち人間のために何をなされたのかを憶いシュッツ、バッハの音楽にその意味を聴きたいとの願いから〈受難楽の夕べ〉は次のようなプログラムとなりました。
■<受難楽の夕べ>
2018/3/23(金)19:00開演
東京カテドラル聖マリア大聖堂
シュッツ《カンツィオーネス・サクレ》より
受難モテット 指揮:淡野弓子
J.S.バッハ《オルガン小曲集》より
オルガン・コラール(コラール唱付き)
オルガン:椎名雄一郎
シュッツ《マタイ受難曲》
イエス:浦野智行
指揮/福音史家:淡野太郎
合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
東京カテドラル聖マリア大聖堂
全席自由 ¥4,000(一般)¥2,500 (学生)
チケット予約:T&F 042-394-0543 菊田音楽事務所
シュッツのモテットと受難曲を歌う、ということは初めからの計画でしたが、「コラール」を歌いたい、聴きたいという願いから、昨年6月16日東京カテドラルで行なわれた椎名雄一郎・J.S.バッハ《オルガン小曲集》全曲の演奏会を思い出しました。コラール唱(石川洋人/淡野太郎)によってコラールの旋律が歌い出され、オルガンに移るとそのメロディが様々な形で組み込まれ、織り成され一幅の絵のようにコラールの内容を伝えます。それは明快にして重層、バッハならではの、というかバッハここにありの世界、そして演奏でした。
コラールの旋律の現れ方は曲ごとに工夫が凝らされており、バッハが五線紙帖の1ページごとにコラールのタイトルのみを書き記して、長年(およそ30年間)に亘りアイディアが湧くと筆を走らせページを埋めていった様子が目に浮かびます。こういうわけで3/23のコラール唱もソロ、ユニゾン、2声、4声、カノンなどいろいろな形でお聴きいただきたいと思っています。
《カンツィオーネス・サクレ》よりのモテット3曲は久しぶりに淡野弓子が指揮を致します。淡野太郎が常任指揮者としてシュッツ合唱団の指導を始めた2008年から私は本来の声楽の道に戻り、良き師の許でエンリコ・デレ・セディエ著『Vocal Art』によって、自らの身体を楽器として再構築することが出来ました。今、この10年間に気付かされた音の法則、それに基く声の技法を再びシュッツ合唱団に伝える時間が残されていることに喜びを覚えております。
そして、こちらも久しぶりにシュッツの《マタイ受難曲》を演奏することとなりました。思えば私たちが初めてこの受難曲を皆様にお聴き戴きましたのは1969年の受難節でした。ヴィーンから来日されたテノール、クルト・エクイルツ氏を福音史家に迎え、イエスはバリトンの蔵田裕行氏、ピラトはテノールの唐津東流氏が歌ってくださいました。その後幾度か今は亡きテノールの鈴木仁氏に福音史家をお願いし、イエスはヴァン・デ・ワーレ神父、また1985年の東西ドイツ旅行の際のイエス役は当時の若手バリトン、アンドレアス・ゾンマーフェルト氏、1992年にはイエス:(故)宮原昭吾、ピラト:辻秀幸の各氏、2001年には朗唱部分を日本語(杉山好訳)、合唱部分をドイツ語で歌うという実験的な公演も行なわれています。この時の福音史家は淡野太郎、イエスは小原浄二氏でした。思い出は尽きません。今回は各受難曲のイエス役として定評のある浦野智行の登場です。シュッツ《マタイ》は初めてとのこと、ご期待下さい。
ハインリヒ・シュッツ合唱団創立50周年記念コンサート その1
■J.ハイドン・オラトリオ《天地創造》
2018/1/14(日)14:00開演
練馬文化センター「つつじホール」(小ホール)
ガブリエル(ソプラノ):大石すみ子
エヴァ(ソプラノ):柴田圭子
ウリエル(テノール):沼田臣矢
ラファエル(バス):中川郁太郎
アダム(バリトン)/指揮:淡野太郎
合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
メンデルスゾーン・コーア
管弦楽:ユビキタス・バッハ
コンサートマスター:瀬戸瑤子
練馬文化センターというわたくしたちにとっては初めてのホールでしたが「このホールなので来易かった」と西武、東武各線から初めてのお客様が沢山いらしてくださったようです。思いがけない喜びでした。
以下、当日のプログラム解説のあとがきに記しました私の想いです。再掲をお許しください。
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ミルトンの『失楽園』(岩波文庫 上・下)に「Harmony」という言葉が出てきます。訳者平井正穂氏は「調和」という言葉を当ておられます。音楽におけるハーモニー、その基本であるドミソとは、三つの音が集まったものではなく、もともと一つだったものが倍音を生んで同時に鳴っている多くの音からドミソが抽出された現象を言います。
ハイドンは《天地創造》の音楽をC音で始めました。一つの音は万物を生み無限に鳴り続けます。私たちが共に歌い奏でるときハーモニーが生まれます。しかしその音は実は私たちが生まれる前から在ったのです。私たちはたまたまその時その音に組み入れられるのです。一つの音が鳴ったとき、もともと在るものに身を投じたのだという思いと、この音は私が出したのだという思いの間には大きな隔たりがあり、この二つを調和させるには困難が伴います。
今からおよそ半世紀前、バッハ演奏には二つの流れが拮抗していました。一つはロマンティックな響きの中でソリストが名人芸を披露するもの、もう一つは普段から合唱を共に歌い、その中からそれぞれの音楽にふさわしいメンバーがソロを受け持つ、というものです。当時カール・リヒターは前者の、わが師ヴィルヘルム・エーマンは後者のスタイルを提唱していました。私は1968年にシュッツ合唱団を設立した際、エーマン教授の考えを基盤とする学びと実践を考え、以来50年が経ったわけですが、やっとこの頃になって現在の在り方が当時の理想に近付いてきたように思います。
オーケストラは曲目によって楽器編成が異なりますので、練習には苦労がつきまといます。ユビキタス・バッハの名のもとに集う奏者たちはここ十数年来バッハのカンタータの演奏を月に1〜2度続けています。曲ごとに楽器編成が異なるため、厳密には毎回同メンバーの練習というわけではありませんが、同じ方向を目指すには恵まれた状況と申せましょう。このバッハ演奏にはシュッツ合唱団、メンデルスゾーン・コーアの有志が毎回参加し、声と器楽の融和にも努力が傾けられています。
今回の《天地創造》の演奏に関して私たちは、各ソリスト、各奏者、各合唱歌手の音が一つの音から生まれたように響くことを目標としました。初めて触れたハイドンの《天地創造》によって、音楽の基本的命題がさらに明確になり、進むべき方向に強い示唆を与えられました。試行錯誤を続けていた私たちにとって、本日の演奏はこれまでの集大成であり新しい出発でもあります。お支えくださる皆様に深く御礼申し上げます。またこれからもお見守り戴ければ嬉しく存じます。
万感の思いと感謝のうちに
2018年1月14日 たんの・ゆみこ
(ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京 主宰)
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お知らせ その1
■本郷教会Soli Deo Gloria 2018
日本キリスト教団 本郷教会礼拝堂 [無料]
都内杉並区上荻4-24-5 JR西荻窪より北へ徒歩10分 Tel:03-3399--2730
聖書朗読:宮崎新 本郷教会牧師
合奏:ユビキタス・バッハ
合唱:H.シュッツ合唱団・東京、メンデルスゾーン・コーア有志 指揮:淡野太郎
3/11(日) 18:00 SDG No.344
バッハ カンタータ第182番(ライプツィヒ後期稿)《天の王よ、汝を迎えまつらん》
4/8(日) 18:00 SDG No.345
バッハ カンタータ第42番《この同じ安息日の夕べ》
4/28(土) 18:00 SDG No.346
バッハ カンタータ第166番《汝はいずこに行くや》
5/20(日) 18:00 SDG No.347
バッハ カンタータ第174番《われいと高き者を心を尽くして愛しまつる》
6/10(日) 18:00 SDG No.348
バッハ カンタータ第76番《もろもろの天は神の栄光を語り》
7/1(日) 18:00 SDG No.349
バッハ カンタータ第147番《心と口と行いと生きざまもて》
7/22(日) 18:00 SDG No.350
バッハ カンタータ第45番《人よ、汝はさきに告げられたり、善きことの何なるか》
8/4(土) 18:00 SDG No.351
バッハ カンタータ第102番《主よ、汝の目は信仰を顧るにあらずや》
本郷教会サマーコンサート2018
8/19(日) 17:00
バッハ カンタータ第69番a《わが魂よ、主を頌めまつれ》
<初期バロックの三大巨匠の二重唱>
(アンサンブルの至高の響きを求めて)
〜モンテヴェルディ、シュッツ、シャイン〜
4/14(土) 16:00 本郷教会★無料★
ソプラノ 大石すみ子
メッツオソプラノ 羽鳥典子
ヴァイオリン 奥村 琳 二宮昌世
バロックチェロ 十代田光子
チェンバロ 伊藤明子
先便でお知らせしました〜理論と実践からなる音楽講座〜の詳細が決まりましたのでお伝え致します。
■場所 日本キリスト教団本郷教会(場所:前述)
■日時 4月10日より6月26日までの毎週火曜日 全12回
音楽理論 16:30~18:00
発声講座 19:00~21:00
音楽理論はギリシャに遡って音楽の音(楽音)と音程を学び、発声講座では倍音発声のトレーニングをしながらさまざまな曲に触れる。
「まこと(マテーマ)、きずな(ハルモニア)の算数教室」
講師 江端伸昭
この講座は、音楽の音(楽音)とその音程について語っていくものです。その主役は、1、2、3、4、・・・という自然数と、その足し算・引き算、さらに掛け算・割り算です。だから「算数教室」なのですが、それを現代の「音楽理論」として、さまざまな雑談を通じてしゃべることを目指しています。
古代ギリシャ語のマテーマ(真理、学ぶもの)は、ピュタゴラス教団の人々が探究したものです。「数」などという意味は含まないので、mathematicsを「数学」と訳すのは本当は誤訳です。ピュタゴラス自身は科学者ではありませんでしたが、マテーマの探究を重んじていたし、また「自然数」や「音と音楽」や「天空の天体」などに大きな興味を持っていました。彼の後継者たちはそれにヒントを得て、メソポタミアやエジプトで古くから知られていた実際的な知識を、「真理を見出す」という立場からさらに深く探究したのです。それがマテーマティケー、「真理を探究によって学び見出すこと」です。
マテーマティケーのうちで、1、2、3、4、・・とどこまでも続く自然数(アリトモス)の探究は、アリトメティケーと呼ばれます。これが「算数」です。ところが、小学校では、自然数の本格的な理論とその哲学的基礎などは絶対に教えられません。だからこそ、算数を大人がまとめ直してみることは大変面白い話題になるわけです。そして、自然数は飛び飛びにしかありませんから、その理論はアナログの中のデジタルの物語になります。
古代ギリシャのハルモニアという音楽用語は、現代語のハーモニーとは違って、「音階」を意味します。部外者にはあっと驚かされる事実ですが、仮に「きずな」と訳しておいたので、その「なぞ」(なぜ)を想像してみていただければと思います。そして、音階の音はやっぱり飛び飛びにしかありませんから、「算数」と関係してしまうのです。オクターヴ・5度・4度といった協和音程の本性も、ここから明らかにされるでしょう。それはまた、20世紀初めに出現した相対性理論や量子力学にもつながっています。[講師]
東京都立芸術高校音楽科、東京芸術大学音楽学部作曲科卒。J.S.バッハの教会カンタータおよびコラール関連作品の研究に携わる。フェリス女学院大学、都立総合芸術高校講師として、踊りながらの楽曲分析の実践を教える。富田庸「バッハ文献集http://www.music.qub.ac.uk/~tomita/bachbib/」の主要貢献者、バッハアルヒーフ・ライプツィヒ運営のデータベース「バッハデジタルhttps://www.bach-digital.de/」の外部協力者。
「倍音発声を学びながら自分の身体を楽器に変えてゆく」〜歌唱、アンサンブル、合唱の基礎講座〜
講師■淡野弓子
音階とはどのようなものかを学び、自分の声帯の機能に結びつけ、明瞭で清潔な音程へ導かれることを体験します。受講生は自分自身の声から倍音の立ち上ることを実感します。そこから当然の結果として長3度、完全5度、完全8度の音程が生まれることを理解し、実際の歌唱に繋げて行きます。この訓練を複数の人と同時に行なうことによって、純正律のハーモニーが生まれます。ア・カペラ合唱の始まりです。[講師]
東京芸術大学を経てドイツ・ヘルフォルト教会音楽大学に学ぶ。68年ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京を設立し2008年まで常任指揮者。1989年〜2001年にかけて<シュッツ全作品連続演奏>を行い全496曲を終了。声楽をアグネス・ギーベル、エリザベス・マンヨンに学び、両師の教えの根幹にあった倍音を用いる発声技法の研究と実践を重ねる。活水学院キリスト教音楽研究所研究員。ムシカ・ポエティカ代表。
1講座 36,000円(全12回)
★どちらか一つの講座受講も可能です。
★いずれもプリント代は別途となります。
■申し込み 下段の申込書に記載されている項目をFAXまたはメールにてお知らせください。
■締め切り:2018年4月8日(日)
■連絡:ムシカ・ポエティカ 淡野弓子
e-mail: yumiko@musicapoetica.jp
Fax:03-3398-5238
研究心旺盛な皆々様のご参会をお待ち申し上げております。ではお元気で麗らかな春をお迎えください。
2018年3月
ムシカ・ポエティカ 淡野弓子
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