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ムシカWeb通信


■ 2010/02/16 ドイツ・リートの集い

 09年5月〜7月、12月〜10年1月に行ったドイツ・リート講座の受講生によるスタジオ・コンサート<ドイツ・リートの集い>を2/6(土)午後5時より保谷のスタジオで開きました。

 リートは、詩人と作曲家との出会いによって生まれて来たものですので、同じ作曲家でも詩人が変ると音楽も変ります。興味をそそられたので、 マイヤーホーファーとゲーテの詩によるシューベルト、ハイネとアイヒェンドルフによるシューマン、メーリケとゲーテによるヴォルフ、そしてブラームスはまだ一人ですが、彼の良き友であったグロートによる曲を選んで勉強しました。

 今回の講座ではシューベルトからヴォルフまでをひとくくりにしましたので、最初にシューベルト=マイヤーホーファーの<夜の歌>とヴォルフ=ゲーテの<アナクレオンの墓>を大和美信さんが歌いました。シューベルトとヴォルフ1曲ずつを続けて聴く、というのは初めての体験でしたが、さすらいの老吟遊詩人が歌い終わって息絶えるというマイヤーホーファー詩の<夜の歌>からギリシャの詩人アナクレオンへの敬愛と憧憬を歌ったゲーテの<アナクレオンの墓>への移行が思いがけぬ美しさ! これは<レクイエムの集い>などにとっておきたい組み合わせ、と思いました。

 続いて今村ゆかりさんによるゲーテ=シューベルト<トゥーレの王>、マイヤーホーファー=シューベルトの<エルラーフ湖><夜の歌>が歌われました。<トゥーレの王>は『ファウスト』の中でグレートヒェンが昔の言い伝えの話を口ずさむという設定で夢見心地の少女の声、<エルラーフ湖>は実際の舟遊び、<夜の歌>は前述の通り老詩人とそのあたりの夜の静寂を歌った作品で、切り替えに苦労されたと思いますが、今村さんの高く透明な声による<トゥーレの王>ではグレートヒェンの何気ない様子が良く伝わってきました。

 アイヒェンドルフの詩によるシューマンの<リーダークライス Op.39>は全12曲を変則ながら5人の歌い手(大和美信/淡野弓子/松井美奈子/中村光子/淡野太郎)が代わる代わる歌いました。ここでは誰よりもピアノの山川節子さんが大変でいらしたことでしょう。調性もテンポ感覚もそれぞれに異なり、雰囲気の捉え方もいろいろでしたが、一人一人は真正面に音楽に向かっていたと思います。

 幻想的で高踏趣味のアイヒェンドルフにひきかえハイネは語り口が庶民的で時に皮肉っぽく、同じシューマンが作曲したとはいえ、ハイネの詩による<リーダークライス Op.24>はぐっと趣きが変ります。軽妙、洒脱、物事に入り込まずに距離をおいて見る、などこういう歌は音色が難しいですね。Op.24からの3曲<わたしは木陰を彷徨った><私の悩みの美しい揺籃><ミルテと薔薇もて>を玉井千恵さんが高いソプラノで歌いました。40年近くシュッツ合唱団の最高音域を歌い続けた彼女の声の質は透明で硬質、感傷的な部分が無く、驚くほどハイネの詩に合っていて、これは意外な発見でした。

 ブラームスは地味ながら大した歌曲を遺した人です。詩人グロートはブラームスより14,5歳年上ですが二人は良い友人同士でした。グロートの詩に付けられたリートは、ブラームスの歌詞の把握の仕方が、親友同士が我が意を得たりとばかり肩を叩き合っているようで、「親しみ」と「暖かさ」が伝わってきます。歌っていると、我知らず胸が熱くなり涙がこぼれそうになるのでした。<雨の歌><余韻>を柴田圭子さんが、<調べのごとく><郷愁 I & III> を大垣ひで美さんが歌いました。二人とも、曲を外から撫でるのではなく、全身で詩と音楽に入り込もうとする姿勢が非常に良く分かりました。このようなアプローチで勉強を進めると、目にみえない部分がいつの間にか育って、ある日思いがけない花が咲くのではと期待しています。

 詩人が変った途端に曲のたたずまいががらりと変るさまは想像以上で、このことから演奏上のヒントを幾つも与えられました。皆、自分の意志をはっきりと示す演奏で、ドイツ語も思ったよりずっと明瞭に聴き取れました。

 3週間で24曲を準備し、全員の伴奏をして下さった山川さんは、なによりも「言葉」を大切に奏いて下さいました。歌い手ともども良い時間を持てたと思います。

 お客様は84歳の I さんとNさん、76歳のFさんです。なぜわざわざお歳を公表したかといいますと、このお三方とも今もって熱心に勉強を続けておられ、着実に伸びておられる方々だからです。

 同じ志を持った者同士の語らいはコンサートの後もえんえんと続きましたが、行き着く先はやはりアグネス・ギーベル女史の稀なる人物像についてでした。

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■ 2010/02/27 サイト・マスターよりアドレスの変更のお知らせ

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