■ 2009/03/12 クロイツ教会(ドレスデン)におけるカリグラフィー展を終えて 蘆野ゆり子
ドレスデンでの展示を成功のうちに終え、先頃帰国した蘆野ゆり子の報告です。400年前のドイツの音楽が奇しき縁に結ばれて日本にもたらされ、その感動が形を変えて再びドイツで今を生きる人々の心と繋がったのです。人の身体には時間的な限界がありますが、精神のエネルギーは永遠に生き続けるのですね。感無量です。[Y.T.]
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 2009年1月15日(木)から 3月1日(日)まで、ドレスデンのクロイツ教会内にある展示会場で、シュッツのヨハネ受難曲、バッハのマタイ受難曲、ヨハネ受難曲、マルコ受難曲、メンデルスゾーンのオラトリオ”エリア”、”パウロ”を含め、42点のカリグラフィーを、ザクセン州ルター派教会美術工芸プロジェクトの主催で展示しました。
■ 2009/03/24 メンデルスゾーン そして ペルト
<受難楽の夕べ>(3/27 金 午後7時 東京カテドラル)の練習とプログラム・ノートの執筆、訳詞などに忙殺され、すっかりご無沙汰しておりました。トップページでもお知らせ致しましたが、今週の金曜日3/27には メンデルスゾーン2曲とペルトの<PASSIO>を歌います。
チェロとコントラバスに支えられた男声の重唱と合唱によるメンデルスゾーンの<晩祷歌>(ラテン語)は、いつどこで演奏しても「おお、これは!」と感嘆の声に包まれる逸品です。
<詩編22>(ドイツ語)は周囲の人に嘲られ、身体を砕かれて水のようにされ、舌は上顎に張り付いてしまったという瀕死の状態を語る歌で、ダヴィデの作とされています。実際にイエスが十字架に上げられたのはこの千年後なのですが、内容はイエスの受けた辱めの状況と酷似しているのです。メンデルスゾーンは場面場面を綿密に描写し、話の進め方も力強く、その集中度と首尾一貫性は一聴に価すると思います。
ペルトの<PASSIO(福音史家ヨハネによるイエス・キリストの受難)>では、ラテン語のテキスト1語につき1小節が当てられ、1音節ごとに1つの和音という思い切ったアイディアで新約聖書「ヨハネによる福音書」第18章1節より第19章30節のイエスの受難記事が語られます。各声部の動きも使われる音も極度に切り詰められているにも拘わらず、一つの母音に集まった音が発せられると1回ごとに異なった倍音が響きます。
ペルトが雨の音ににじっと耳を澄ますシーンをフィルムで観たことがあります。水の落ちる音が反復の不可能な、水滴と水面の一期一会であるように、<ヨハネ受難曲>のラテン語の一音節はその都度そこに吸い寄せられたいくつかの音によって鈴の鳴るような響きを発します。調和しようがしまいが、いささかの妥協もなく、言葉の進行に従って先へ進みます。神すら見えるのではと思わせる透明な響きと、とぐろを巻く大蛇さながらの密集した不協和音が代わる代わる現れ、美しいというよりは非情で容赦のない世界です。
この曲を同じカテドラルで日本初演した際にはペルト氏の来日という出来事もあって入り切れないほどのお客様でした。今回は静かな夜になるでしょう。恐らくその方がペルトの音楽にはふさわしいように思います。ご来会をお待ち致します。