年の暮のごあいさつを
2017年もあと僅かとなりました。「夢に向かって進む」は人間に許された大きな幸福のひとつだったはずですが、周囲を見渡すと不穏このうえなく、未来を語ること自体が危うくなってきているのを感じます。由々しい現実と言わねばなりません。
宗教改革500年であった今年、幾度となく頭をよぎった言葉、それはルターの「明日世界が滅びようとも、私は今日小さな林檎の苗を植えるだろう」でした。そうです。私たちは歌い続けねばなりません。
2018年、ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京は創立50年を迎えます。語りにくい未来とはいえ我々にとっては大切な節目となる1年ですので、4回のコンサートと新しい講座を計画致しました。第1回は新年の《天地創造》
です。
ハインリヒ・シュッツ合唱団創立50周年
記念コンサート その1(チラシ・当サイトTopPage)
■J.ハイドン・オラトリオ《天地創造》
2018/1/14(日)14:00開演
練馬文化センター「つつじホール」(小ホール)
ガブリエル(ソプラノ):大石すみ子
エヴァ(ソプラノ):柴田圭子
ウリエル(テノール):沼田臣矢
ラファエル(バス):中川郁太郎
アダム(バリトン)/指揮:淡野太郎
合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
メンデルスゾーン・コーア
管弦楽:ユビキタス・バッハ
コンサートマスター:瀬戸瑤子
全席自由 ¥4,000(一般)¥2,500 (学生)
ハイドン(1732-1809)は愛想がよく楽天的な人だった、ということです。こういう話を聞くだけでも気が楽になりますね。またモーツアルトの勉学について世話をし、ベートーヴェンの才能を認め弟子にしました。苦労人であった彼も晩年はヴィーンに居を構え、じっくりと宗教作品に取り組みます。《天地創造》は創世記、詩編、そしてミルトンの『失楽園』からの言葉による台本(男爵ゴットフリート・ヴァン・スヴィーテン作—原作は英語)のドイツ語訳につけられたオラトリオで、1796年から98年にかけて作曲されました。
宗教音楽において、数字「2」は人を現し数字「3」は神あるいは天的なものを象徴するというのが大方の形ですが、『天地創造』においては、第一部、第二部がラファエル、ウリエル、ガブリエルの三天使がソロ、もしくは三重唱で登場し、第三部に至ってアダムとエヴァが生まれると彼等の二重唱で話が進行するのです。ハイドンが世界の始まりをこのような数字の象徴で語ったのは興味深いことです。こんなわけで今回のソリストはいずれもアンサンブル経験の豊富な歌手が務めます。
オーケストラはこの世に生まれ出てくるものすべてを描写し、特に獣や鳥はその種類毎に異なった楽器、音型が使われています。
今回はヴェテランのコンサートマスター瀬戸瑤子のもと、本郷教会のSDGで日頃から声楽・合唱作品と共に演奏しているユビキタス・バッハのメンバーが集いました。
合唱は和声進行が明晰で歌詞の内容に一致しており、その他の修辞法も大旨バロック期に用いられていたものですが、過剰な装飾がそぎ落とされ、典雅高貴といった趣きです。シュッツ合唱団とメンデルスゾーン・コーア合同で歌います。
2018年を清新なハイドンの音楽とともにお迎えください。ご参会を心よりお待ち申し上げております。
ムシカ・ポエティカ2017
■ <レクイエムの集い>
~魂の慰めのために~
2017/11/21(火)19:00開演
三鷹市芸術文化センター「風のホール」
〜合唱と歌曲による追悼の調べ〜
指揮/バリトン:淡野太郎
メゾソプラノ:淡野弓子
ピアノ:江端津也子
ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
~魂の慰めのために~という副題にある「魂」は生者の? 死者の? 両者共に、との考えでやってきましたが、『アウグスティヌス講話』(山田晶 著)には、この世に生きている人は「苦しい」と口に出して言うことが出来るが、死んでしまった魂はどんなに苦しくとも人に伝えることが出来ない。そんな魂にとってただ一つの慰めは祈りである、とありました。このようにはっきりと書かれていたので私の気持ちもさらに確かにされました。「集い」では、親しい人を亡くされて悲しんでおられる方々の、そして彼の世へ旅立たれた方々の「魂」よ安かれ、との祈りを歌に変えてお届けしたいと思いました。
さて本番前、淡野太郎の合唱練習には私も何度か足を運びました。最初のうちは(例によって)1時間経っても数小節しか進みません。どういうことをしているのかというと:
● 各パートを全員で歌う。
● その際、音程を横に取るのではなく、必ず何調の第何音かを確認し、和音から和音へあたかも水面を跳ぶ小石のように旋律を歌う。石から石の間はレガート。(このためのテクニックは別にあるのですが、ここでは省きます。)
● 次にS+B、A+Tのように気を付けなければいけない箇所の確認を2声ずつ行う。
● いよいよ全員で一つの和音を出すのだが、これには順番がある。根音→第2倍音→第3倍音→のように根音から高次倍音へ向けて順序正しく声を出す。この場合、低次倍音は振動数が低く高次倍音は振動数が高いので、おのずと各声部の声の色が変わる。ダメ出しはアルトのように歌うべきピッチが話声と同じ位の振動数であったときに不用意に生の声を出したときや、ソプラノがバスから第4or5or6倍音であるにも関わらず張り上げてしまったときなど。
この他に勿論言葉の発音、子音の位置、言葉の内容に向かって心をどう整えて行くか、などなど課題は山積です。2008年に指揮者の座を太郎に受け渡して以来10年、折りにふれて練習を見てきましたが、一体何人の人がこれを理解し、技法をマスターするだろう、と心配の種は尽きませんでした。事実、なんとかして欲しい、という直訴も何度かあり、その度に説明したり、もう少しの辛抱だ、と言ってみたり大変な騒ぎでした。
が、演奏会前日の11/20になって心地良い和音が何度も響き、オヤ、と思ったのです。どの曲も和声進行がはっきりと分かり、作曲者がなにを言いたいのかが音で伝わってきたのです。ちょっと驚きました。ルドルフ・マウエルスベルガーがドレスデン大空襲のあと一ヶ月半後に廃墟と化した都を悼む合唱曲《Wie liegt die Stadt so wüst》では燃え盛る炎の音が聴こえてきたのです。成る程、作曲者の表現したかったことを声で伝えるとはこういうことだったのかと思いました。
当日は字幕の助けもあり、神学的には非常に難しいテキストもお客様は納得された様子、ほっと致しました。
ドイツ・リートはどの曲も思ったよりはるかに名曲で、いやあこれは大変、心を引き締めまた解き放って、さらに、さらに、さらわねば、という日々でしたが、江端津也子さんの実に土台のしっかりしたピアノに支えられ、気持ちよく歌えました。それにしてもこんなに毎日大天才とばかり付き合っていて大丈夫なんだろうか? と不安になるほど、どの詩も音楽も飛び抜けたものでした。かのゲーテがギリシャの大詩人アナクレオンに頭を垂れ、墓の前で呟いた言葉にヴォルフが淡々と曲を付けた・・・このような事実を実感出来る演奏家という仕事もまた贅沢なものではあります。感謝!
■朝日カルチャーセンター立川
西欧文化の源流
「ヨーロッパ音楽とキリスト教」
〜リズム・メロディ・ハーモニーの働き〜
講師 淡野弓子
2/16(金)15:30~17:00
朝日カルチャーセンター立川教室(JR立川駅
駅ビル ルミネ9F) 042-527-0411
受講料:2808円
申し込み:朝日カルチャーセンター立川教室
人間は「想像力」を駆使し、一生を費やして技を鍛え、さまざまな芸術作品を生み出してきた。その作品の放つ美やエネルギーは時に神性を感じさせ、「神」の存在を告げる。その営みは太古から今に至るまで地上のあらゆる場所に生き続け消えたことがない。
ヨーロッパ音楽の三原則といわれるリズム、メロディ、ハーモニーは自然界の法則と一致しており、同じく自然界の生き物「人間」の心身と強い関わりを持っている。キリストの教会ではこれらの特性を活かし、音楽によって神を讃美するに留まらず、音楽によって説教者の語る内容を伝えるということを考えた。バッハの教会カンタータはこの音楽による説教の良い例といえよう。
受講生はシュッツ、バッハらの現したさまざまなフレーズを声にし、旧・新約聖書の言葉がなぜそのようなリズム、メロディ、ハーモニーになったのか、またそれらの音楽を演奏したり聴いたりすることによって人間にどのような変化が起こるのかを実際に体験する。読譜力不問。(講師・記)
ハインリヒ・シュッツ合唱団創立50周年
記念コンサート その2(チラシ・当サイトTopPage)
■<受難楽の夕べ>
2018/3/23(金)19:00開演
東京カテドラル聖マリア大聖堂
シュッツ《カンツィオーネス・サクレ》より 受難モテット
J.S.バッハ《オルガン小曲集》より
オルガン・コラール(コラール唱付き)
オルガン:椎名雄一郎
シュッツ《マタイ受難曲》
イエス:浦野智行
合唱:ハインリヒ・シュッツ合唱団・東京
指揮/福音史家:淡野太郎
東京カテドラル聖マリア大聖堂
全席自由 ¥4,000(一般)¥2,500 (学生)
来年は私も講座を開き、そこで倍音発声のトレーニングをしながらさまざまな曲に触れ、ゆくゆくはシュッツを歌って下さる人材を育てたいと考えております。
それにはまず、音楽の基本をギリシャに遡って理解して戴くことが必要と考え、作曲家・音楽学者の江端伸昭先生のお講義から始めたいと思います。今のところは仮予定として大筋のみお知らせ致します。
■講師 江端伸昭
倍音列の話の根底にあることについて筋道の通った算数の話をすることと、それが古代ギリシャや古代中国の音楽理論の話につながっていることが必要なので、自然数の掛け算の話になって、量子力学のエッセンスまでたどりつくことになります。例えば、まだ量子力学の根本微分方程式をシュレージンガーが発見していなかった時期に「どうして自然数が出てくるんだ、自然が跳躍しているじゃないか」と騒いでいたときからすでに、ピュタゴラスだ音楽だ〜と言って楽しんでいた物理学者がいたわけですが、その本質はまさに倍音現象にあります。[講師]
〜倍音発声を学びながら自分の身体を楽器に変えてゆく試み〜
■講師 淡野弓子
私たちが明瞭で清潔な音程で歌うには、なんらかの根音の上に響く倍音を用います。受講生は自分自身の声から倍音の立ち上ることを実感します。そこから当然の結果として長3度、完全5度、完全8度の音程に導かれるということを理解し、実際の歌唱に繋げて行きます。この訓練を複数の人と同時に行なうことによって、純正律のハーモニーが生まれます。ア・カペラ合唱の始まりです。[講師]
火曜日 12回
註:会場の都合(他行事との折合い)が
確定して後、詳しい日程をお知らせ
致します。
音楽理論 16:30~18:00
発声講座 19:00~21:00
■場所 日本キリスト教団本郷教会(予定)
■受講料 2講座 66,000円(全12回)
1講座 36,000円(全12回)
★どちらか一つの講座受講も可能です。
★日程詳細/場所は2018年1月中に
確定致します。
yumiko@musicapoetica.jpにご連絡下さい。
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今年も大変お世話になりました。皆様のお支えに心より感謝申し上げます。
善き新年をお迎え下さい。
2018年12月
ムシカ・ポエティカ 淡野弓子