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ムシカWeb通信


■ 2011/02/07 再び2月4日

 15時間遅れという時差のお蔭で、今年私は誕生日を二度祝って戴きました。一日目は東京時間、お祝いのメール・メッセージをいろいろな方から。

 ヴァイオリニストの永井由里さんからのお祝いは、次のようなものでした。

 昨年のシュッツの白鳥の演奏:ついにココまで来たかシュッツ合唱団40年! 天国に届いた演奏! 天国の入り口。いやいやこの天国が音楽のはじまりのはじまりにちがいない! きょうは良い日をすごされてますように! 人生の始まりの日に乾杯!  永井 由里

 

 「人生の始まりの日」という言葉にいたく感激したのですが、この「始まりの日」とは「コンサートが終ったあと」と思い込んでいて、ひょっとして「この世に生まれた日」という意味? と思ったのは実は3日も経ってから。由里さんも2月4日が誕生日、まさに「乾杯!」なのでした。(勿論彼女は私より年下)

 二日目はミネソタ時間2月4日、ミセス・マニヨンのレッスンでした。Sedieのチャート・・・ピアノの真ん中のドから12度上のソまでの各音に、適正な母音が示されたもの・・・を用いて、各ピッチをその母音に従って完璧な響きにしていく練習をおよそ30分。チャートの意味の深さを知らされました。私の声は良い響きの音と不完全な響きとがまだ混在しており、不完全な響きのピッチを常時完全にすることがこれからの目標です。

 口の中の軟口蓋のカーヴが問題なのですが、私は自分の軟口蓋の範囲を狭く設定していたことに気付かされました。そういえば「耳鼻咽喉科」と一度に言ってしまいますね。要するに、口の中の上部は鼻に通じ、左右のコーナーは耳に接近して行くのです。この部分を隈無く明けて行くと、名ソプラノが「世界の皆様、こんにちは」と微笑む、あのよく写真で見るようなソプラノの顔面になります。口内の粘膜を伸ばし切ってのちの笑顔と顔の外面のみで笑うのとは笑顔の価値も変ってくるぞ、というのが今回の発見。アキコ・カンダはダンスの師マーサ・グラハムに「手は肩から伸びているのではない。背中の真ん中から手はすでに始まっている。」と教えられたそうです。これは指揮をしていると良く分かります。肩からの手で振った場合と背中から肩甲骨をも広げながら振った場合では、出てくる音がまるで違います。

 チャートののちブラームスの<Regenlied Op.59-3 雨の歌」を歌いました。この曲のテーマは彼のヴァイオリン・ソナタ 第一番 G-Dur の第3楽章に用いられており、それは重厚な美しさに溢れた佳品、私はこの曲が大好きなので、雰囲気に委せてダーッと歌ってしまったのです。これが大失敗。ミセス・マニヨンの指示は、グロートの詩を1節読んでは1単語ずつ声にする、というもの、これを全曲に亘って丹念に繰り返して行ったのです。詳細は非常に専門的な技術の説明になりますのでここでは省きますが、人に伝えるためには、1語1語を客観に基づく技術に変換して発音し直す必要がある、ということをまたもや思い知らされたのでした。

 子音を発するタイミングについては、アグネス・ギーベル女史からおおよそ12年に亘ってしごかれたのですが、今回のマニヨン先生の指導はさらに厳格なものでした。母国語を歌う人と、外国語を歌う人との違いを目の当たりにした思いでした。私は外国語群ですので、さらに徹底させる必要があるということです。

 さてこの日にはまだ驚くべきことがあったのです。昨年の4月と6月のレッスン以来、私はエンリコ・デッレ・セディエの遺した<Vocal Art>なる本と、チャートについての詳しい説明を探す毎日でした。やっと<Vocal Art>Part 1.をインターネットで探し出し、また、マニヨン先生の仰った‘Helmholtz ヘルムホルツ’の音感覚についての大著をドイツから取り寄せ、この2冊の連関を調べてみると、セディエのチャートはヘルムホルツとその共同研究者‘Koenig ケーニッヒ’の実験に依るところが大なるものであることが分かったのです。私はその他断片的に拾い集めたセディエの理論が、<Vocal Art>Part 1.に載っているものとそうでないものがあったので、なんとしてでも、<Vocal Art>Part 2, 3, などなどを目にしたいと思っていました。

 マニヨン先生には上述の2冊をお目に掛け、これまでに理解し得たことをお話しました。なんとマニヨン先生はご自身のライブラリーから黒い表紙に挟まれた一抱えの紙の束を持って来られ、そっと広げて中身を見せて下さったのです。

 それは古びた、というよりは崩壊寸前の<Vocal Art>Part 1. Part2. Part3. そしてPart4. だったのです。Part4. は最後に FINE  FIN   THE END と記されていたので、その先は無いはずです。面白いことに、第1巻は英語、第3巻はイタリア語、第2巻と第4巻は1ページが縦に三等分され、伊、仏、英の3カ国語で書かれています。見せて戴けただけでも興奮してしまったのですが、先生は「全部コピーして良いですよ。あなたは私の言うことを理解する true student、どうか持って行って人々に伝えてください。またなにか発見したら教えてね。」と。

 私は驚きと感謝で半泣きでした。桃子が、今日は母の誕生日、と告げると、伴奏ピアニストのキャッシイが Happy Birthday を弾き出し、皆で合唱。マニヨン先生のそれは素敵なお声をこの場でお伝え出来ないのが本当に残念です。

コメント(2) [コメントを投稿する]
_ m.matsui 2011年02月11日 01:31

なんとすばらしい誕生日だったことでしょう!<br>《Vocal Art》については、淡野先生のご苦労話を伺っていたのでこちらまですっかり驚き、うれしくなってしましました。先生には研究と実践活動でますますお忙しくなられると思いますが、お帰りを楽しみに待っています。

_ Yumiko Tanno 2011年02月12日 15:37

松井さん<br>一緒に喜んで下さって本当に嬉しく思います。セディエの《Vocal Art》すべてコピーしました。桃子は「すごい執念」という言葉をつかいましたが、私はなんと言われようと「嬉しい」のひと言です。


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