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ムシカWeb通信


■ 2008/12/03 花婿「イエス」

 11/29 土 のSDG、私はゆったり、たっぷり楽しみました。この本番のための練習は通常6日前の日曜日午後3時〜6時に行われます。合唱も器楽もここで一度に音を出します。それからの5日間、出演者はそれぞれ家でさらったり考えたりして土曜日を迎えます。土曜日は合唱は1時半からさらい、器楽奏者は3時に集まって合わせます。5時半にはぼちぼちとお客様がお見えです。6時、廣田牧師が開会を告げ、聖書が朗読されます。

 この聖書の言葉は当日の最初の曲のテキストです。聖書はカンタータの最初と途中でも朗読されます。この聖書箇所がその日のカンタータのテーマです。バッハはこの言葉を音楽で解釈しました。カンタータの作曲者による「音楽による説教」と牧師の「言葉による説教」とは礼拝に於いて同じ比重とみなされています。

 さて私は本番の指揮の比重を徐々に淡野太郎に移しておりまして、この回は11/23の練習に出られなかったこともあり、演奏は全面的に太郎に委せた形となりました。カンタータの解説と訳詞も瀬尾文子さんがして下さるようになり、私はプログラムの曲目と出演者のページを作り、ほんのひとこと当日のモテットの訳詞と解説を書けば良いという、恵まれた状況を迎えたわけです。

 

 SDG開始。こんな贅沢な時間を与えられて、というのがまずは正直な感想です。演奏したり、それを生で聴いたりすると、そこには作曲した人が厳然と存在しているのを感じます。出来上がってから300数年、400数年たった音楽を、今現在、我らがもの、として実際の音の世界、響きの空間に、こんなにあっさりと身を置いていていいのだろうか?

 ドレスデンの作曲家ギュンター・シュヴァルツェの毎月のカノンは音楽の原則のみに貫かれた、すなわち、三和音のみの音楽で、これ以上シンプルには書けないでしょう、という作品なのですが,これが鳴り出すと凄いのです。次から次へと繰り出される和音が決まる度に噴水のような、花火のようなわくわくする響き、輝きを放ちます。今年のSDGでは各回彼のカノンが響き渡りました。改めてシュヴァルツェ氏に感謝、感謝です。

 バッハのカンタータ第140番は「Wachet auf, ruft uns die Stimme  目覚めよ、と呼ぶ声あり」では、花嫁(魂)の待つところに花婿(イエス)が来るという状況で二つの二重唱が歌われます。第三曲のデュエット・アリアは「いつ来て下さるの?」との花嫁の問いに「僕はもう来ている」と答える花婿のかなり神秘的な歌、第六曲では「我が恋人は我がもの」「私は彼のもの」というお互いの愛と存在を確認する歌です。この花嫁を今村ゆかりさん、花婿を山田明生くんが歌いました。二人とも進境著しく、実に麗らかな歌を披露しました。特に山田くんのイエスは新鮮でした。イエス役は色々な意味で非常に難しいので、若い声の「イエス」を聴くという機会は珍しいのです。彼はシュッツ少年合唱団に小学4年の時に入団し、ボーイソプラノから現在の高め、軽めのハイ・バリトンに成長した歌い手なので、皆の喜びもひとしおでした。器楽のオブリガートはヴァイオリン(第三曲)の林由紀子さん、オーボエ(第六曲)の宮本忠昌さんがそれぞれ真摯に取り組み、難曲にもかかわらず、しなやかに音楽に溶け込んだ演奏でした。またヴァイオリンのパートには今年音楽高校に入った岩下恵美さんも共に奏きました。バッハのカンタータ演奏が徐々に若い世代に受け継がれて行くさまを目の当たりにし、嬉しかったです。Y.T.


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