プローリスはドレスデンから市電に乗って30分という距離にある新興住宅地です。プローリス教会はその地にある小さな教会で、住民の生活の中に溶け込んでいるという感じでした。いつも東京でバッハのカンタータを歌っている上荻の本郷教会と良く似た造り、雰囲気です。勿論本郷教会よりひと回りは大きいのですが、後方二階のバルコニーにオルガンが据えられているところまで同じです。午後三時から練習、五時開演という厳しいスケジュールの中、なんといっても恐ろしいのはディストラー「クリスマスの物語」です。約40分のア・カペラの作品で、同時に二つの調性で進む場面が瀕発し、さらに各パートのリズムが異なり、モテット風の曲とコラール編曲が交互に現れ、その間をこれも勿論無伴奏のソリストの朗唱が繋いで行く、という難曲、わたくしは飛行機の中でこの曲の譜面をじっくり見直してふと気付いた新しい並び方に挑戦しようと決心し、これまでの前列にS/A、後列にB/Tという配置を各パート二列で左からS/A/T/Bに変えました。ずっと練習してきた曲の並び方が変わるのは、歌い手にとっては有り難くない話であることは重々承知していますが、前後の応答より左右の応答の方が聴き手にとっては音楽の構造が分かりやすいのではないかと思ったのです。冒険は成功! この曲に限らず、プログラムは合唱、重唱ともに感じ良く流れ、アットホームな暖かいお客様の笑顔、拍手に朝の聖母教会とはまた違う感動を覚えました。
終演後二年前と同じようにドイツの素朴なクリスマス料理、お菓子、ワイン、ビール、ジュースに囲まれ、旧交を温め、新しい友人に出会ったのでした。びっくりしたのは、朝、聖母教会で私たちに付き添って下さったワルブレヒト夫人がご主人と共に来て下さり、なんとその方は日本で日本フィルでヴィオラ奏者として活躍されたワルブレヒト氏だったのです。ムシカ・ポエティカのコンサートマスター瀬戸瑶子さんとも旧知の間柄で、思い掛けない喜びに話が弾みました。ドレスデン吹奏楽団の指揮者で作曲家のシュヴァルツェ教授にもお目にかかり、先生の合唱作品、詩編と「クリスマスの物語」を戴きました。是非演奏してみたいものです。また国際シュッツ協会の年報を手に「あなたがここに載っている淡野さんですね」と話し掛けて来られた一人の男性が・・・。なんとその小冊子にはシュッツ協会日本支部の正木光江先生が、わたくしたちシュッツ合唱団の活動を報告して下さっている記事が掲載されていました。まことに真摯な深い愛情を、作曲家シュッツ、彼の音楽、そしてわたくしたちの活動にも注いで下さっておられる方々が、実にさまざまなところに居られるのだ、ということを実感したひとときでした。尚、フーゴー・ディストラーについては、12/9/06 SDGの解説で触れていますので、ご興味をお持ちの方はどうぞご覧ください。