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ムシカWeb通信


■ 2014/10/17 アルヴォ・ペルト

 昨夕、高松宮記念世界文化賞授賞式の会場、明治記念会館に入ると、共同TVの人が私を取り囲み、なにやら興奮しているのです。ペルト氏が近付いて来ました。微笑み合った途端、抱擁、頬ずりで言葉が出ません。辛うじて私が「Welche Freude!」というと「Alles kommt von Ihnen.すべてはあなたから来たのです。」とペルト氏。

 それからさまざまなメディアの人が、「昨日の記者会見でペルト氏はあなたの事を『1990年に淡野弓子が初演してくれたので、私の曲が日本に知られるようになった。そしてこの賞に導かれた。彼女がヒーローなんだ。』と言っていましたよ。」と言うではありませんか。そんなわけでカメラやマイクを持った人たちはどんな女性が現れるのか興味深々だったようです。

 晩餐の席で翌16日にエストニアの合唱団のコンサートに招待され、予定をやりくりして音羽の同仁教会に行きました。ペルト氏の曲も何曲か演奏され、なかでも「Vater unser 主の祈り」の美しかったこと! テノールとピアノで演奏され、簡単な旋律、素朴な和音ながら、響きはまさにペルトのもので、この1曲を聴けただけでも未来に繋がる希望を与えられたと思いました。そして、ソプラノで歌っても良いか訊いてみよう、と思ったのでした。

 終演後、挨拶に行くとペルト氏は、たった今贈られたばかりの花束をいきなり私に。「この花束はあなたのもの。あなたは私の曲を初めて日本で演奏してくれました。」と言われ、さらにさっき演奏された《Vater unser》のCDも下さったのです。

帰途、なんともいえない感謝の気持ちと純粋な深い愛を心に感じ、家に帰ってCDを良く見ると、その曲は2011年6月に作曲され、当時の法王ベネディクト16世に捧げられたもので、少年ソプラノとピアノのために、と書かれていました。少年が歌い、ピアノはペルト氏でした。彼の演奏は初めて聴いたのですが、実に力強く、豊な響きで驚きました。彼こそは、今のこの世界に必要不可欠なものを与える事の出来る、真の芸術家の一人であると思います。


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