トップ «ピリオド楽器引き渡しの儀 最新 秋も深まり・・・»

ムシカWeb通信


■ 2008/10/20 白鳥の食べたいもの、それは水に映る雲・・・ ドビュッシー、ラヴェルを聴く

 <ピリオド楽器引き渡しの儀>の行われた10/11土、この日の午後には、西日暮里の やなか音楽ホールで、武田正雄さんの企画構成になる、<ドビュッシー・ラヴェルの歌曲>という、非常に目の詰んだ、手のかかったコンサートを聴きました。「ムーヴマン・ペルペチュエル:無窮動」というグループの第一回演奏会で、武田さんと、主として彼が大学や大学院で教えている学生さんたちによって、18曲のドビュッシー、14曲のラヴェルという豪華版。ソプラノ、メゾソプラノの8人の歌手はそれぞれ良い持ち声、素直な発声で、名曲かつ難曲を次々に歌い、行き届いた指導と真摯な勉強態度の双方がはっきりと聴こえてくる演奏でした。健気にも、という歌唱、すでに自分の持ち味を客観的に知っている人、得も言われぬ佇まいのうちに曲の雰囲気を歌う前から感じさせる人などなど、皆良い資質を持っていました。武田さんは長年ヨーロッパで活躍されていたピアニストの三ツ石潤司さんと、ドビュッシーの<ボードレールの五つの詩>から「バルコニー」「噴水」「恋人たちの死」、ラヴェルの<博物誌>から「孔雀」「蟋蟀」「白鳥」を歌われました。このお二人の演奏ではピアノと声がいきなりシンフォニックに立ち上ったのにはびっくりしました。在仏22年の武田さんの歌と語りは、単に楽しいというレヴェルをとっくに超えています。それは、この世では極くたまにしか味わえない「愉悦」です。特に「博物誌」の、結婚式の段取りは万全でも、肝心の花嫁が来ない「孔雀」の話や、雲を食べたいように人の眼には映るが、実際は虫を食べて太るのだ、という落ちのついた「白鳥」の話など、思わず吹き出してしまいました。

 この会の成功の要因は、作曲家をドビュッシーとラヴェルに絞ったこと、彼らの作品の中でも、とりわけ良い曲、また演奏の機会が少なく、それでも是非聴いてみたかった曲がふんだんに取り入れられていたこと、だったと思います。プログラム・ビルディングが出来上がった時点でコンサートはもう半分終わったようなものということでしょうか。なにはともあれ行って良かったのでした。


編集