しかし、ピアノでリュビーモフのような演奏が何故可能なのか? 考えていました。岡田氏の批評の最後に「・・・この公演ではすべて手作りされることで近年話題の名器、ファツィオーリが用いられた・・・」とあったのを読んで、アッ、たしか『パリ左岸のピアノ工房』(T.E.カーハート 村松潔 訳 新潮クレスト・ブックス)にこのピアノのことが・・・ありました!
・・・彼はドビュッシーの『月の光』を弾きだしたが、高音域で演奏されたテーマはたんに柔らかいだけでなく、不思議なほど澄んだ音色で、さまざまな倍音を含んでいた。これはいままで聞いたことのない音だ、とわたしは思った。このピアノの柔らかい音は、ふつうの抑えられた音とはまったく音質が違っていた。(283ページ)
・・・わたしがファツィオーリに、倍音を聞き分けることができるのかと訊くと、彼は長年の経験からほかの人たちには聞こえない音を聞き分けられるようになったと答えた。彼の仕事の大きな部分がそのバランスを適切なものにすることに関わっているという。ほかの人々には必ずしもわからない差異になぜこだわるのだろう、とわたしは思った。「それはそうするのが正しいことだからです」と彼は言った。(284ペ−ジ)
FaceBookで沢山の方が「倍音」の世界に共感してくださったのには驚きました。なんか嬉しさが何倍にも・・・情緒にも倍音の世界ってありません?